長い箸
「長い箸」という話があります。閻魔大王が、ある男に極楽と地獄の違いを実際に見せて説明する話です。実は、地獄も極楽も同じような環境で、同じように生活をしており、食事も極楽・地獄ともに同じ美味しそうな食事がテーブルに並べられていました。しかし、何故か地獄にいる人たちは痩せ細り、食事もろくに摂れていないような感じ。逆に極楽に住む人々は、ふっくらとしており、栄養がよく摂れている感じです。男は、その違いを食事の風景から理解しました。地獄も極楽も、食事の時は1メートルほどの長い箸を使うことが決められています。地獄に住む人々は、食事になると、腹一杯食べようと、必死に箸を使って食事を摂ろうとしますが、長い箸を使って自分の口に持っていくことは出来ず、どうしても食べることができません。そのうち、上手く食べられないことにイライラし始め、他の人たちと喧嘩をしたり、争い合うようになりました。一方極楽の人々は、長い箸を使い、相手の口へ食べ物を食べさせ合っているのでした。地獄と極楽の違いはただ一つ、食事の風景であったのです。
この「長い箸」の喩え話は、コロナ禍の今の世の中を表しているように思えます。「奪い合えば足らず、分かち合えば余る」という言葉があります。2020年が始まり8ヶ月が経ちコロナによる不安は今や人々の生活に常に付き纏い大きな影響をもたらしています。以前にあったマスク争奪戦。トイレットペーパー争奪戦。今はうがい薬争奪戦や○○警察などなど。不安が人々の心を侵食し、どんどんと拡がり、自分さえ良ければ…という心の感染症は、ある意味コロナによる感染爆発よりも深刻ではないでしょうか。
長い箸の話から感じることは、地獄も極楽も、死してからいく場所ではないということ。生きている私たちの今の世が地獄であり極楽であるということ。
今もそしてこれからも、闘う相手は人であらず、コロナであるということを忘れずに、奪い合うのではなく、分かち合う世を私たちが自ら生み出していかねばならないことだと思います。